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眠れる森の美女の原作って怖いの?大人向きって本当?

結論から申し上げると、「眠れる森の美女」の原作は確かに怖い要素を含んでいます。特に最も古いバージョンであるイタリアのバジーレ版「太陽と月とターリア」(1634年)と、フランスのペロー版「眠れる森の美女」(1697年)には、現代の私たちが知っているディズニー版やグリム版とは比べ物にならないほど残酷で恐ろしい内容が含まれています。 眠っている間に妊娠・出産する、人食い鬼が登場する、カニバリズムの要素があるなど、とても子供には聞かせられない大人向けの恐怖に満ちた物語でした。現在親しまれているロマンチックな物語は、グリム兄弟が19世紀に子供向けに大幅に改変した結果なのです。

美しいプリンセスと王子様の愛の物語として世界中で愛されている「眠れる森の美女」ですが、その原作には驚くべき恐ろしい要素が隠されています。今回は、時代と共に変化してきたこの物語の「本当は怖い」側面について詳しく探ってみましょう。

目次

最古の原作:バジーレ版「太陽と月とターリア」の衝撃的内容

17世紀イタリアの恐怖譚

「眠れる森の美女」の最も古い記録は、17世紀前半(1634年-1636年)にイタリアのナポリ出身の詩人ジャンバティスタ・バジーレが編纂した説話集『ペンタメローネ(五日物語)』の中の「太陽と月とターリア」です。この物語は、現代の私たちが想像する「童話」の範疇を完全に超えた、大人向けの恐怖小説といえる内容でした。

物語は、ターリアという王女が麻に紛れ込んでいた棘で指を刺し、死んだように眠りに落ちるところから始まります。父親は悲しみに暮れ、この悲しみを忘れるために城を去ってしまいます。ここまでは他のバージョンと似ていますが、問題はここからです。

眠っている間に起こる恐怖

ある日、狩りに出た王が城を発見し、眠っているターリアを見つけます。王は美しいターリアに魅力を感じ、眠っている彼女を犯してしまいます。そして王は何事もなかったかのように去っていきます。

さらに恐ろしいことに、ターリアは眠ったまま双子を妊娠・出産します。赤ちゃんたちの一人が母親の指を吸ったことで、ようやくターリアは目を覚ますのです。これは「愛のキス」とは程遠い、現代では到底受け入れられない内容です。

復讐と殺戮の結末

王はターリアのもとを再び訪れ、2人は恋仲になります。しかし、王には既に妻がいました。王妃はこの事実を知ると激怒し、復讐を企てます。王妃は料理人に命じて双子の子供たちを殺害し、その肉を料理にして王に食べさせようとします。

最終的に、王妃の計画は露見し、王妃は火あぶりの刑に処されます。しかし、ここに至るまでの過程は殺人、カニバリズム、復讐という恐怖の要素で満ち溢れています。

ペロー版に見る大人向けの恐怖要素

宮廷社会の闇を反映した物語

1697年にフランスのシャルル・ペローが書いた「眠れる森の美女」は、バジーレ版ほど露骨ではありませんが、それでも現代基準では十分に恐ろしい内容を含んでいます。ペロー版の恐怖は、より心理的で社会的な側面に焦点を当てています。

ペロー版では、王女は100年の眠りから自然に目覚め、現れた王子と恋に落ちます。しかし、多くの人が知らないのは、この物語には結婚後の恐ろしい続きがあることです。

人食い鬼の義母

ペロー版の真の恐怖は、王女と王子が結婚した後に始まります。王子の母親である王妃が、実は人食い鬼(オーガ)だったのです。王子が戦争に出かけている間、人食い王妃は王女と2人の孫(オーロールとジュール)を食べようと企みます。

王妃は料理人頭に「明日の昼食にオーロール(上の子供)を食べたい」と命令し、その後ジュール(下の子供)、そして最後には王女自身も食べようとします。この場面の描写は非常に具体的で恐ろしく、現代の子供向け童話とは比べ物になりません。

狂気と自滅の結末

最終的に王子が帰還し、母親の計画を知ることになります。人食い王妃は自分の行為が息子にばれてしまったことに動転し、様々な毒蛇やヒキガエルなどのゲテモノが入った大きな桶に自ら飛び込んで死んでしまいます。

この結末は、狂気に陥った人間の恐ろしさと、罪の報いとしての自滅を描いており、大人の読者に向けた深刻な教訓を含んでいます。

グリム兄弟による「浄化」とその意味

子供向けへの大胆な改変

19世紀にドイツのグリム兄弟が編纂した「いばら姫」は、これまで述べてきた恐ろしい要素を完全に排除し、子供たちにも安心して聞かせられる美しい物語に変貌させました。この変化は、単なる編集作業を超えた、文化的・社会的な「浄化」作業でした。

グリム版では、王子のキスによって姫が目覚め、「2人は死ぬまで幸せに暮らしました」で物語が終わります。人食い鬼、カニバリズム、性的暴力、殺人などの要素は一切登場しません。これは、グリム兄弟が童話を子供の道徳教育の手段として位置づけていたためです。

時代背景と価値観の変化

この「浄化」は、18世紀から19世紀にかけての子供観の変化を反映しています。それまで大人と同じ娯楽を共有していた子供たちが、独自の文化と保護を必要とする存在として認識されるようになったのです。

また、ロマン主義の影響により、「真実の愛」や「純粋な心」といった理想的な価値観が重視されるようになり、これが物語の改変にも大きく影響しました。

現代への影響

グリム版の影響は非常に大きく、20世紀のディズニー版をはじめ、現在私たちが知っている「眠れる森の美女」は、ほぼ全てがグリム版をベースにしています。これにより、原作の恐ろしい要素は一般的には知られなくなりました。

しかし、近年では原作研究が進み、大人向けの再話や学術的な分析によって、これらの「失われた恐怖」が再び注目されるようになっています。2014年の映画「マレフィセント」なども、こうした原作の複雑さを現代的に再解釈した作品といえるでしょう。

まとめ

「眠れる森の美女」の原作は確かに怖く、現代の感覚では到底子供向けとは言えない恐ろしい内容でした。バジーレ版の性的暴力とカニバリズム、ペロー版の人食い鬼と狂気の描写は、当時の大人向け娯楽文学の特徴を如実に表しています。

これらの恐ろしい要素は、単なるセンセーショナリズムではなく、当時の社会問題や人間の暗い側面を寓話的に表現したものでした。権力の濫用、家族内の葛藤、復讐の連鎖など、現代にも通じる深刻なテーマが込められていたのです。

一方で、グリム兄弟による「浄化」作業は、童話を子供の教育手段として活用するという新しい価値観の表れでもありました。この変化により、美しく純粋な愛の物語として「眠れる森の美女」は世界中の子供たちに愛されるようになりました。

原作の恐ろしさを知ることで、現在私たちが親しんでいる美しい物語の価値がより深く理解できるようになります。また、同じ物語でも時代や文化によって全く異なる形で語り継がれることの興味深さも実感できるでしょう。

「眠れる森の美女」は、人類の物語文化の豊かさと複雑さを示す貴重な例といえます。美しい表面の下に隠された暗い歴史を知ることで、この古典的な物語をより深く、そしてより批判的に読み解くことができるのです。

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