2013年に公開されたスタジオジブリ作品『風立ちぬ』で、主人公の堀越二郎を演じたのは、声優ではなく『新世紀エヴァンゲリオン』で知られるアニメーション監督の庵野秀明氏でした。なぜ宮崎駿監督は庵野氏を主人公の声に選んだのでしょうか?結論から言うと、宮崎監督は庵野氏の「素朴で飾らない声質」と「創作者としての内面性」を評価し、堀越二郎というキャラクターに最も適していると判断したためです。また、二人の長年にわたる師弟関係と深い信頼関係も、この起用の大きな要因となりました。庵野氏自身も航空機への深い愛情を持っており、堀越二郎の心情を理解できる人物として宮崎監督に選ばれたのです。
宮崎駿監督の起用理由と意図
宮崎駿監督が庵野秀明氏を『風立ちぬ』の主人公に起用した背景には、明確な意図と深い考えがありました。
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金曜よる9時
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ゼロ戦を設計した実在の人物・堀越二郎をモデルに堀辰雄の「風立ちぬ」からも着想を得た宮崎駿監督の大ヒット作✨#スタジオジブリ #宮崎駿監督 #夏はジブリ pic.twitter.com/4Jwl1p8DI1
「普通の人の声」への こだわり
宮崎監督は過去のインタビューで、「堀越二郎は特別なヒーローではなく、普通の技術者。だからこそ、プロの声優の作られた声ではなく、もっと自然で素朴な声が必要だった」と語っています。庵野氏の声は、確かに洗練された声優の声とは異なり、どこか親しみやすく、リアリティがあります。
この選択は、宮崎監督が長年追求してきた「リアリズム」への追求とも合致します。『風立ちぬ』は実在の人物である堀越二郎をモデルにした作品であり、できる限り現実感のある表現を求めていた宮崎監督にとって、庵野氏の自然な声質は理想的だったのです。
創作者としての共通点
もう一つの重要な要因は、庵野氏が宮崎監督と同じ「創作者」であることです。堀越二郎は戦闘機の設計者として、美しい飛行機を作ることに情熱を注いだ人物です。庵野氏もまた、アニメーション監督として作品作りに人生を捧げている創作者であり、堀越の心境や葛藤を理解できる立場にあります。
宮崎監督は「庵野君なら、創作することの喜びも苦しみも分かっている。堀越二郎の気持ちを演じるのではなく、本当に理解して声にできる」と考えていたようです。この判断は結果的に正しく、庵野氏の演技には技術者としての情熱と繊細さが見事に表現されていました。
庵野秀明と宮崎駿の師弟関係
庵野秀明氏と宮崎駿監督の関係は、単なる業界の先輩後輩を超えた深い師弟関係にあります。この長年の信頼関係が、今回の大胆な起用につながりました。
人と空と飛行機…これぞ宮崎駿監督の真骨頂、本当に素敵なシーンですーーーー(((o(*゚▽゚*)o))) 宮崎駿監督の長編引退作品「風立ちぬ」テレビ初放送中! #風立ちぬ #ジブリ #宮崎駿 #シベリア #飛行機 #kinro pic.twitter.com/JeljlOGFRe
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ナウシカ時代からの縁
二人の出会いは1984年の『風の谷のナウシカ』にさかのぼります。当時まだ学生だった庵野氏は、宮崎監督に直接売り込みをかけ、ナウシカの巨神兵のシーンを担当することになりました。この時から宮崎監督は庵野氏の才能を高く評価し、以後も様々な場面で指導とアドバイスを続けてきました。
特に印象的なのは、庵野氏が『エヴァンゲリオン』の制作で行き詰まった際、宮崎監督が個人的にアドバイスを送ったというエピソードです。このような深い師弟関係があったからこそ、宮崎監督は庵野氏に重要な役を任せることができたのでしょう。
共通する航空機への愛
両者に共通するのは、航空機に対する深い愛情です。宮崎監督は幼少期から飛行機に魅力を感じ、多くの作品で航空機を重要なモチーフとして使用してきました。一方、庵野氏も大の飛行機好きとして知られ、『エヴァンゲリオン』でも航空機の描写にこだわりを見せています。
この共通の趣味と知識が、『風立ちぬ』での起用において重要な要素となりました。堀越二郎の飛行機に対する愛情を表現するために、本当に航空機を愛している人物の声が必要だったのです。
信頼関係の証明
宮崎監督が庵野氏を起用したことは、30年近くにわたる信頼関係の証明でもあります。声優経験のない庵野氏を主人公に起用するのは大きなリスクを伴う決断でしたが、宮崎監督はそのリスクを取ってでも庵野氏の声を選びました。
結果として、庵野氏の演技は多くの批評家や観客から高い評価を受け、『風立ちぬ』の成功に大きく貢献しました。この成功は、宮崎監督の人を見る目の確かさと、長年培われた師弟関係の深さを物語っています。
まとめ
『風立ちぬ』での庵野秀明氏の起用は、宮崎駿監督の深い洞察と長年の信頼関係に基づいた必然的な選択でした。プロの声優ではない庵野氏の自然で素朴な声質が、堀越二郎という等身大の技術者のキャラクターに見事に合致したのです。
また、両者が共有する創作者としての経験と航空機への深い愛情が、キャラクターの内面性をより豊かに表現することを可能にしました。30年近くにわたる師弟関係があったからこそ実現した、この大胆で的確な起用は、アニメーション業界においても画期的な出来事として記憶されています。
声優という職業が高度に専門化された現代において、あえて素人を起用するという宮崎監督の判断は、作品の本質を見極める監督としての慧眼を示しています。庵野氏の演技は『風立ちぬ』という作品の魅力を大いに高め、観客の心に深く響く結果となりました。
この起用は、適切な人選がいかに作品の質を左右するかを示す好例であり、今後のアニメーション制作においても参考となる事例として語り継がれるでしょう。宮崎監督と庵野氏の師弟関係が生み出した、まさに奇跡的なキャスティングだったと言えるのではないでしょうか。
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