結論から申し上げると、私たちが知っている「眠れる森の美女」の物語には、複数の国がモデルとなっています。最も古い原作はイタリアのジャンバティスタ・バジーレが17世紀前半に書いた「太陽と月とターリア」、その後フランスのシャルル・ペローが1697年に「眠り姫」として再話し、最終的にドイツのグリム兄弟が「いばら姫」として編纂しました。 つまり、この美しい物語は イタリア→フランス→ドイツ という流れで各国の文化的要素を取り入れながら発展してきたのです。
世界中で愛され続けている「眠れる森の美女」。ディズニー映画で馴染み深いこの物語ですが、実はその背景には複数の国の豊かな文化と歴史が隠されています。王女が100年の眠りにつくというロマンチックな物語が、どのようにして生まれ、どの国の文化を反映しているのか、詳しく調べてみました。
物語の起源とそれぞれの国の特徴

イタリア:最古の原作「太陽と月とターリア」
眠れる森の美女の物語の最も古い記録は、17世紀前半(1634年-1636年)にイタリアのナポリ出身の詩人ジャンバティスタ・バジーレ(1575年?-1632年)が編纂した説話集『ペンタメローネ(五日物語)』の中の「太陽と月とターリア」という物語にあります。
この原作版の特徴は非常に衝撃的で、麻に紛れ込んでいた棘が指に刺さりターリアが眠りに落ちると、父親は悲しみに暮れてこの悲しみを忘れるために城を去ってしまいます。そして物語はさらに過激な展開を見せるため、現代の私たちが知っている美しい童話とは大きく異なる内容となっています。
ナポリ方言で書かれたこのヨーロッパ最古の昔話集は、イタリアならではのおおらかであけっぴろげなエロチシズムと、荒々しく皮肉たっぷりの残酷さで満ち満ちています。バジーレの時代、これらの物語は子供向けではなく、大人の娯楽として楽しまれていたのです。
フランス:ペローが洗練させた「眠り姫」
フランスの作家シャルル・ペロー(Charles Perrault)によって17世紀(1697年)に書かれた童話「眠り姫」(原題 “La Belle au bois dormant”)は、バジーレの作品を基にしながらも、フランス宮廷文化の洗練された要素を取り入れた作品となりました。
ペロー版の特徴として、シャルル・ペローの生きたフランス絶対王政時代の価値観や当時の関心ごとを分かりやすく語っています。誕生祝いの洗礼の儀で、国中から集められた仙女たち。お祝いにお姫様に美や徳、聡明さ、美声など様々なものを授けますという設定は、まさにフランス宮廷の華やかな祝祭文化を反映しています。
また、ペロー版では、眠っていた王女が王子のキスで目覚めるわけではなく、眠ってから100年が経って呪いの効果が切れたため自分で目を覚ましていますという設定も興味深い特徴です。
ドイツ:グリム兄弟による「いばら姫」
19世紀にドイツのグリム兄弟が編纂した「グリム童話」の中の「いばら姫」として、この物語は現在私たちが最もよく知る形になりました。
グリム兄弟は、民間伝承を本にしようと考え、フランス人の子孫へ取材したり、図書館へ出向いてペローの童話集を借り、加筆をし「いばら姫」となりました。重要なのは、グリム兄弟は、ペローの書いた残酷な結末を排除しました。私たち、現在多くの人が知っている結末は、グリム兄弟によって作られたのでしたという点です。
ドイツ版では、王子のキスによって王女が目覚め、すぐに幸福な結末を迎えるシンプルな物語となっています。これは、ドイツの民衆文化において、子供たちにも安心して聞かせられる教訓的な物語として再構成されたためです。
各国の文化的影響と物語の変遷
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イタリアからフランスへの伝播
ペロー版の『眠れる森の美女』(『眠り姫』)は、グリム童話以前の原作ということになります。イタリアからフランスへの物語の伝播は、当時のヨーロッパの文化交流の活発さを物語っています。
ペロー版はより貴族社会に根差した物語で、王宮生活が詳細に描かれているのに対し、グリム版は民衆向けに編集され、シンプルで理解しやすい形式にされています。これは、フランスの絶対王政時代の豪華絢爛な宮廷文化が物語に大きな影響を与えたことを示しています。
フランスからドイツへの展開
多くのフランス人が宗教上の理由でドイツに移住しました。その移り住んだフランス人もこのお話を語り継いだのです。このような人の移動と共に物語も国境を越えて伝わり、各地の文化と融合していったのです。
各バージョンの特徴的な違い
イタリア版(バジーレ)の特徴:
- 最も原始的で生々しい内容
- 大人向けの娯楽として作られた
- ナポリの地域色が強い
フランス版(ペロー)の特徴:
- 宮廷文化の洗練された要素
- 仙女や豪華な祝祭の描写
- より文学的な表現
ドイツ版(グリム)の特徴:
- 子供向けに道徳的に再構成
- シンプルで分かりやすい構造
- ハッピーエンドの確立
まとめ
「眠れる森の美女」の物語は、単一の国がモデルというわけではなく、イタリア、フランス、ドイツという3つの国の文化が段階的に融合して生まれた、まさにヨーロッパ文化の結晶といえる作品です。
最初にイタリアのバジーレが生み出した荒々しくも人間臭い原作が、フランスのペローによって宮廷文化の洗練を受け、最終的にドイツのグリム兄弟によって子供たちにも愛される美しい物語として完成されました。現在私たちが知っているロマンチックな「眠れる森の美女」は、実は3つの国の文化的DNA を受け継いだ、時代を超えた傑作なのです。
それぞれの国の文化的背景を知ることで、この古典的な物語がより深く味わえるのではないでしょうか。ディズニー映画を見る時も、その背景にある豊かな文化的歴史を思い出してみてください。
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